油仕事と鉱石風呂、時々バイタル熱気浴。東京都大田区西糀谷「観音湯」

油仕事と鉱石風呂、時々バイタル熱気浴。東京都大田区西糀谷「観音湯」

 もう10年近く前になるが、勤勉な大学生だった私は勤勉すぎて大学5年目の春を迎えていた。とはいえ出席が必要な授業は週1回しかない。空いた時間に好きな授業に出て研究領域の見聞を深めつつ、嫌いな教授の授業にわざわざ出向きその教授をこき下ろす内容のレポートを提出するなど(単位はもらえた)、学生という人生最後のモラトリアム(と、当時は思っていたが社会人生活も見方次第ではモラトリアムみたいなもんだった)を健全に謳歌していた。一方で、生活を稼ぐために選んだのは羽田空港で牛タン&鉄板焼肉屋のアルバイト。空港は時給がよく、飲食店はまかないが出た。金も稼げて腹も膨れる最高のアルバイトだった。しかもその飲食店のアルバイトは大体女の子が可愛かった(あとめちゃくちゃ気が強かった)。

はじめに

仕事終わりのビールと銭湯

 オープンキッチンで鉄板を担当することが多く、忙しい時期は5時間ぶっ続けで肉を焼くこともあった。鉄板の前に立ち続けると身体中が油臭くなったが、その後飲むビールほど美味しいものはないと、今でも思う。
 羽田空港までは自転車で通っていた。実は蒲田から環八をまっすぐ行けば、20分くらいで国際線のターミナルに到着する。そこから無料のシャトルバスが出ているので、実質タダで通勤できた。帰り道、「観音湯」で油臭さを落として帰るのが日課だった。

宮造りの面影が残る

観音湯の基本情報

観音湯
〒144-0034 東京都大田区西糀谷3-24-20 
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駐車場   :なし
サウナ   :あり(バイタル熱気浴!)
サウナ温度 :表示は50度(体感は100度)
水風呂   :なし
露天風呂  :なし
浴室    :狭い(3人が3つ)
カラン数  :30人分くらい
天井    :高い
ドライヤー :2分10円
備え付け品 :なし
料金    :480円 ※サウナ込み
営業時間  :16:00~23:30
定休日   :毎週火・金曜日

※全て筆者調べ/2022年4月現在

推しポイント

謎の鉱石風呂、ここにも

 全体的に控えめな浴室に、小さめの浴槽が3つ。左端の浴槽に湯が注がれているが、その上に「ガリウム石温浴泉」という看板が出ている。浴槽3つは全て繋がっており、実は全て「ガリウム石温浴泉」である。石和田章三教授なる人が「発見・指導」したと書いてあるが、実在の人物かは不明だ。「ガリウム石温浴泉」は「ラジウム温泉のような効果がある」らしいが、そもそもラジウム温泉の効果を知らない。ただ「美容と健康にいいので毎日のご利用をお勧めします」的なことが書いてある。具体的な効能を謳わないのは薬機法に引っかからないためだろうか?「鉱石科学研究所」と署名してあるが、検索しても出てこなかった。温浴事業業界の影の組織なのだろうか…
 などと考えているとすっかり体がぽかぽかになる。鉱石風呂はすごい。

バイタル熱気浴とはなにか

 脱衣所からも見えるガラス張りの小部屋の入り口に、「バイタル熱気浴室」と書いてある。元気が出そうな名前だが、実際はスチームサウナである。スチームサウナというと、ドライサウナと比べて温度が低いイメージがあるが、ここの「バイタル熱気浴」はそうでもない。私は5分が限界だった。また、水風呂がないので、水のシャワーで冷ます必要がある。なかなかストイックな「ととのい」が体験できるので、おすすめ。

煙突と昔ながらの番台スタイル

 今時珍しく、番台が脱衣所の方を向いている。女風呂がどうなっているかわからないが、男風呂は丸見え状態。裸のおじさん同士なら全く恥ずかしくないが、番台から服を着た人が見ていると何だか恥ずかしい気持ちなるのは不思議である。昔ながらのスタイルだが、建物もよくみると宮造りの名残が所々に残っている。外にはでかい煙突がそびえていた。天井も、おそらく折り上げ格天井であっただろう面影がある。

「懐かしさ」の正体

 今では頻繁に通わなくなってしまったが、たまに来るとあの大学生活を思い出す銭湯だ。見た目はすっかり大人だが、中身はまだまだガキだったあの頃。成長している気はしないが、この銭湯を懐かしいと感じるということは時間がたったということだろうか。そういえば、定休日が週1日から週2日に増えていた。番台に座っていたおじいさんももういないようだ。いつまでこの銭湯はあるのだろうか、という喪失の感覚と、懐かしさの正体は似ている。

シャッターの「ゆ」がかわいい