理想的なご近所銭湯。東京都大田区蓮沼「はすぬま温泉」

理想的なご近所銭湯。東京都大田区蓮沼「はすぬま温泉」

 「公衆浴場法」で「公衆浴場」と分類されるいわゆる「銭湯」は、公衆衛生の役割を背負っているので行政から補助金が出ており客が少なくても潰れない、というのは近視眼的な見方で、実際、銭湯はどんどん潰れている。理由は様々だろうが、後継者不足や設備の老朽化が主な原因らしい。そもそも自宅にユニットバスが標準設置されている現在、「公衆衛生の役割を果たしているのだ」というだけの建前だけまともな経営を続けていくのは辛いだろう。必要とされる「理由」がないからだ。この時代に、人は銭湯に何を期待して、銭湯は人に何を提供するのか。お気に入りの銭湯が潰れるたび、そんなことを考える。

はじめに

ネオ銭湯ってなに?

 とはいえ大田区の銭湯は元気である。大田区は東京都内で一番銭湯が多い、というのは、子供の頃から日常的に銭湯に通っていた人が多いということだ。つまり、「土日は風呂沸かすのめんどくさいから銭湯」「遊んだ帰りはそのまま銭湯入って帰る」みたいな文化が根付いている、と思う。

 はすぬま温泉のリニューアルは少しメディアで取り上げられ、どう変わったのかはなんとなく知っていた。元々白い照明タイル張り系の銭湯だったはずだが、リニューアル後のコンセプトは木造の「大正ロマン」。オレンジ系の照明が浴場を照らし、温かみのある印象を持っていた。
 ある記事では「ネオ銭湯」と呼ばれていた。レトロなエッセンスを残したまま、現代的に改装をした銭湯をそう呼ぶらしい。それって誰向けなの?と思わないでもないが、とりあえずはすぬま温泉に行ってみた。

はすぬま温泉の基本情報

はすぬま温泉
〒144-0051 東京都大田区西蒲田6-16-11 
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駐車場   :あり(ただし駐車難易度は高い)
サウナ   :あり
サウナ温度 :表示は90度
水風呂   :あり(ぬるめ)
露天風呂  :なし
浴室    :狭い
カラン数  :15人分くらい
天井    :高い
ドライヤー :2分10円
備え付け品 :シャンプー、リンス、ボディソープ
料金    :520円 (サウナは+300円バスタオル・フェイスタオル付)
営業時間  :15:00~24:00
定休日   :毎週火曜日

※全て筆者調べ/2024年4月現在

推しポイント

確かに雰囲気最高

 写真はいろんなサイトで上がっているのでそれを見てほしいが、確かに雰囲気は良かった。暗めの照明に男女ぶち抜きの壁画、ステンドグラスの窓にライオンの蛇口。今の時代に「大正ロマン」をやるなら銭湯と純喫茶は最適かもしれない。

 あれこれ書こうと思ったが、ここはおそらくご近所でもない外様があれこれいう銭湯ではない。週何回か通い、それなりの顔見知りの人とぼんやり挨拶したり、元気な番頭とコミュニケーションとる、みたいなことが銭湯体験の一部として組み込まれているタイプ。夏の平日の夜、ふらっときてサッパリして、アイスでも買っていい感じの風に当たりながら帰る。日常に組み込むことができれば、「ご近所型銭湯」の理想系だと思う。

狭いが、それがマイナスになってない

 浴槽は温泉と炭酸泉と水風呂の3つ。それぞれ4人も入ればいっぱいになるくらい狭いが、あんまり長湯する銭湯でもないので問題ないと思う。サウナと水風呂はそれぞれまあぬるいので、サウナ目的でくる人には向いてないかも。

 日曜日の夜9時くらいに行ったが、サウナは私の前で定員となり、ちょっとだけ待つことになった。お風呂に入りながら待つか、受付で待つか選べたので、お風呂に入りながら待つことに。10分くらいで、男性スタッフが浴場に「サウナでお待ちのかたー!」と呼びにきて、サウナの鍵を渡してくれた。このオペレーションがかなりスムーズだったので、全くストレスにならなかった。個人的にはこういうところに歴史というか、スタッフの経験値というか、ノウハウを感じて感心してしまう。

レトロ趣味と観光客

 内装は宮造の感じを残していたが、おそらく意図的に演出しているものだろう。レトロ趣味というか、「あの頃の銭湯のエッセンスを今に再現する」ことが今の時代に提供すべき価値の一つなのかと思うと同時に、なんだか観光客になったような気がした。あまりにもきちんと「サービスとしての銭湯体験」が設計されているからかもしれない。どこか寂しい気もするが、古い銭湯の新しいカタチとしては一つの答えを出していることは間違いない。